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朝井リョウさんの【正欲】を読んだ。
一言でいうと、正義と悪について考えさせられる深い深い作品だった。
生涯をかけて大切にしたい作品の一つになった。
そして多くの人に是非とも読んでもらいたい。
━━━━━あらすじ━━━━━
自分が想像できる”多様性”だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな――。
息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり始める。
だがその繫がりは、”多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。
読む前の自分には戻れない、気迫の長編小説。
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SNSでも話題になっており、気になっていた本作を8月頃読んだ訳だが、読み進めるうちに続きが気になりすぎて一気読みしてしまった。
今更ながら、これからは心に残る作品を初めて読んだ時の感想をしっかり残しておきたいと思い、こうして文章をつづっている。
今回に関しては少し時間が経ってしまったが、思い出しながら自分の考えを整理しながらゆっくりと書いていきたいと思う。
まずはじまりから、頭を鈍器で殴られたような衝撃があった。
世界を見渡すと、あらゆる情報が「明日死なないこと」という大きなゴールに収斂されていく。
誰もが「明日、死にたくない」と感じていることが大前提に置かれている。
そしてそれに該当する人たちはその事に無自覚な場合がほとんどである。
朝井リョウ著『正欲』
初めの2.3ページを読んだだけで、これが物語なのか、社会分析なのか分からなくなるほどに鋭い考察だと感じた。
多様性が大きなテーマのひとつに掲げられている本作のなかで、多様性がもたらしたおめでたさに関する下の解説文も強く心に残っている。
自分と違う存在を認めよう!他人と違う自分でも胸を張ろう!は結局、マイノリティの中のマジョリティにしか当てはまらない言葉であり、話者が想像しうる「自分と違う」にしか向けられていない言葉である。(一部省略箇所あり)
朝井リョウ著『正欲』
多様性や個性という言葉が美徳のように語られ、その風潮が広がっている現代への鋭い切り口であり、非常に的を得た意見だと思った。
そして、この物語のはじまりを告げる語り手は多様性を叫びながらも人は他者を詮索し、あらゆる情報から容赦なく人をジャッジすると言っている。
そんな世界から逃れ、ほっといてもらうには社会の一員となり、この世界が設定している大きなゴールにたどり着く流れに乗ることが最も手っ取り早い方法だとも語る。
ここに至るまで、わずか7ページである。
そして、ここから始まる「この世界で生きていくために手を組む」ことを決める2人の物語と交錯する別ベクトルの物語たち。
濃密すぎる。強烈すぎる。あまりに重すぎる。
はじまりから心をぎゅっと鷲掴みにされている。
ここまででもきっと分かるだろう。
この作品を読むべきと勧める理由が。
自分の常識、現代社会の当たり前がいかに凝り固まっているものであるか。
思考停止ではいけない。
自分には関係ない、で目を背けることの罪深さ。
とにかく考えさせられる作品である。
こうして語りつつ最初の部分を読み返しただけで、もう一度読みたいという気持ちになった。
この文章を書き終えたらもう一度最初から読むとしよう。
11月10日から映画の上映が開始された。
読み返して必ずや映像作品も見に行きたい。
考えなければならない。
目を背けてはならない。
そう、読む前の自分には戻れないのだ。